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おひさま
児童発達支援事業所
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平成16年7月と17年11月、私どもが設置運営する児童施設「おしま学園(定員100名)」において死亡事故が発生、なにものにも代えがたい尊い、大事な命を失いました。16年は17歳のOさん、17年には9歳のSくん。ご冥福をお祈りし、大きな慈しみのなかで育ててこられたご両親、ご家族に心からのお詫びを申し上げます。
事故の内容については事故概要の通りでございます。
ありうべからざることが連続しておきたという厳しい現実を直視し、あらためて利用児者の生命と健康、生活の安心を守ることが、私どもに課せられた最も重要な義務と責任であることを確認したいと思います。これを果たすために私どもがなすべきことは多岐にわたっています。徹底した事故予防対策と常なる見直し、またそれらが決して自己完結的なものとならないよう、施設オンブズマンをはじめ、ひろく関係の皆様からのご意見をお聞きできるシステムも必要です。具体的な事故対策はもとより、療育や支援の内容、管理職や職員の姿勢なども含め、各位からの率直なご意見ご叱正を、より謙虚に、より素直にお受けする気持ちでございます。
一瞬一瞬の注意の積み重ねによって、多くの事故を未然に防ぐ努力は日々のもので、この仕事に携わる職員のだれもが実行し、すべての療育・支援現場で取り組まれていることでございます。職員のひとり一人、現場のひとつひとつの手によって多くの事故が防がれています。しかし、それでも起こりうる事故を予見し、必要な対策を立てることこそが施設・事業主の責任であることを改めて認識、痛感いたします。
事故の内容や場面が違うとはいえ、二年連続して起きてしまったことをどう受けとめるべきでありましょうか。自らをかばいだてするつもりはございませんが、職員の質、仕事の能力に見劣りすることがあるとは思えません。管理職にあるものも斯界のリーダーの一人であり、経験も豊富であります。
ふたつの事故に共通する事柄は、「(ほぼ)5分のあいだ」のできごとということです。5分間という時間は、「ちょっとの時間」というにはあきらかに長すぎますが、私どもの日常の様々な場面では決してありえない「長さ」ではありません。ふたつの事故、それぞれの場面のそれぞれの前後の状況を見比べ、職員の報告を確かめても、怠惰な様子はありません。しかし、取り返しのつかない事故は起こってしまったのです。
大事なことは、同じ5分で、ある人は一人でも過ごせるが、ある人にとってはそれが大事故につながる、人によってその「5分」の意味が全く違うということであります。「意味が違う」ことは、この人たちのお世話を仕事とする私どもが片時も離してはならず、また忘れてはならない基本認識、鉄則でございます。心身の状況も、障がいの特性も、興味も、理解も、社会性も、何もかも全てひとり一人が違うということ、この「違い」、すなわち「個別性」をぬきにどんな療育・支援の技術、個別計画もマニュアルもありえません。
この大原則が欠落し、教条化しないために私たちの仕事にはあらゆる場面、あらゆる事柄で「確認」が必要です。
思い込みや先入観を排除するために、自分の見方や仕事を自ら問い直すことが「確認」という行為でございます。他者からの検証も必要です。それらは結果として、対人支援の根本、支援者の姿勢を謙虚にしていくものとなるはずです。
そのほか、事故の要因には職員の配置、日課の動き、事後態勢、施設・設備の安全性などいろいろなことがありますが、これらは事故のリスクと拡大を抑える要素と考えるべきであって、その具体策は施設・事業者の責任であります。さらに「5分間の意味」「個別性」を現場の職員個々にどう認識させ、実行させるか、それも施設・事業者の大きな責任であります。
さらにもうひとつ、平成16年、Oさんは事故前に、数度にわたって他の利用者から暴力的な被害を受けていました。しかし、この事実はOさんのご家族にきちんと伝えられていませんでした。その理由は、「外傷がなかった」「心配をかけたくなかった」ということですが、プロフェッショナルとしてはいかにも考えが浅いといわれても申し開きできません。Oさんが他の利用者から加害行為を受けたその心理的負担、それを第一にわかってもらいたい人にわかってもらえなかったことを思うと、「お伝えしなかった」という施設の判断は一人よがりでございました。事実を事実として、前後策を含め、きちんとご家族にお伝えしなかったことに大きな悔いが残ります。
また、加害行為自体は支援がおよばなかった結果であり、加害利用者にも申し訳ない思いでございます。
お二人の尊く大事な命を守れず、将来の希望、未来を奪ってしまったこと、ご家族はじめ、私どもの療育・支援を受けられている皆様の負託とご信頼に応えられなかったこと、幾重にもお詫びを申し上げ、多くの同業の皆様にご心配をおかけしていることを衷心より申し訳なく思っております。
かかる上は、施設の安全対策について、その徹底的な見直しに基づくリスクマネージメントの再構築を法人全施設の最重要課題として位置付け、事故の根絶をめざして努力邁進することが信頼回復の道につながるものと考え、その一歩を踏み出したいと思います。
この2件の事故内容について、類似事故を防止したいというご家族からの強いお申し入れもあり、内部協議の結果、事故概要として公表させていただくことにいたしました。
平成18年3月30日
社会福祉法人 侑愛会
理事長 大場公孝
1. 事故の内容と対策(「項目」は日本知的障害福祉協会危機管理委員会の質問紙を参考)
1)Oさん(1987年生)
事故種別 | 溺水 |
---|---|
発生場所 | 浴室 |
発生日時 | 平成16年7月21日(水) 午後3時50分 |
事故の顛末 | 学校授業が早めに終わったので、午後3時25分頃、職員誘導によって一人で入浴。同35分、同45分、職員が脱衣場から浴室ドア(半透明)越しに姿を確認している。屋外作業から戻ったチーフが同50分に浴室を確認したところ、左肩を下に浴槽内に全身が沈んでいる状態を発見。直ちに引き上げて脱衣場にて人工呼吸、心臓マッサージをおこないながら救急車手配を指示する。 救急車にて病院に搬送され、蘇生術を受けるが、午後5時5分、医師により死亡確認。(入浴中に、てんかん発作を起こしたと推定される) |
事故後対応初期対応 | ・人工呼吸、心臓マッサージ、気道確保、 救急車手配 ・応援職員の要請、管理職へ連絡 |
事故後対応ご家族 | 救急車出動要請直後、ご家族へ電話連絡。来所をお願いしたが、移動中に死亡が確認され、電話にて報告。到着後、直ちに施設長が謝罪。 |
事故後対応行政等 | ・即日、事故内容を監督官庁へ電話連絡し、翌日、事故報告書を提出。 週内に保護者役員会、オンブズマン等報告。 ・17年3月17日、監督官庁の特別監査を受ける。 |
事後の対策 | ・医療マニュアルの改訂 (てんかん発作と入浴支援) ・入浴支援マニュアル見直しと徹底 ・ヒヤリハット報告による危機管理 ・入浴支援特別点検(毎月21日) |
2)Sさん(1996年生)
事故種別 | 溺水の疑い |
---|---|
発生場所 | 施設敷地横手の沢 |
発生日時 | 平成17年11月23日(水) 午後3時35分〜同45分 |
事故の顛末 | 日帰りショートステイ終了間近、ホールで他児らとビデオを視聴していたが、職員が居室等を行き来している最中に所在不明となる(午後3時45分)。すぐに寮内を探し、寮内玄関内戸が開錠されていることを確認、相方職員に連絡して他寮の応援も頼んで内外を捜索するが見つからずご家族、管理職へ連絡。 ご家族、消防・警察、他園職員も加わった捜索の結果、不明時から約7時間後、施設敷地横手の沢にて発見、救急車にて病院搬送され、午後11時50分医師による死亡確認。 |
初期対応 | ・寮内外の捜索 ・応援職員の要請、管理職へ連絡 ・警察へ捜索願 |
ご家族 | 午後4時までのショートステイだったのでお迎えの途中に電話にて所在不明を連絡。 施設長到着後、直ちに謝罪、その後、捜索にも加わっていただく。 |
行政等 | ・所在捜索中に行方不明を監督官庁に 連絡し、随時、経緯を連絡。 11月28日事故報告書提出。週内に保護者役員会、オンブズマン等報告 ・18年3月6日、監督官庁の特別監査を受ける。 |
事後の対策 | ・施錠状況点検と鍵・フェンス設置 ・職員業務日程表による掌握強化 ・短期入所利用児者事前情報書式改訂 ・行方不明時捜索体制整備 |
2. 事故を防ぐために
Oさんの入浴事故直後、コロニー全施設の入浴支援の実際が施設長会議の協議の場に示され、検討の結果、「医療マニュアルの改訂(てんかん発作と入浴支援)」が行われた。当該施設では、「入浴支援マニュアルの見直し」と「入浴支援特別点検(管理職)」が実施され、さらに入浴だけではなく、「ヒヤリハット報告による危機管理」も取り組まれるようになった。
Sさんの所在不明から死亡に至った事故直後、部内に「事故対策委員会」が組織された。事故の内容、状況が違うとは言え同施設での連続ということに、当該施設だけの原因分析や対策では不十分と考えられたからである。その結果、まとめられた事故対策は次の通りである。
施錠状況点検と鍵・フェンス設置、職員業務日程表による掌握強化、短期入所利用児者事前情報書式改訂、行方不明時捜索体制整備、寮連絡網の整備などである。とくに、職員業務日程表による掌握強化については、担当者の役割分担を書式的に明確にし、日課の動きや危険要素の確認、協議を定常的におこない、あらゆるリスクに備えることとした。
また、施錠マニュアルと鍵の形状についても抜本的な見直しをおこない、職員の気遣いだけに頼らない状況をつくった。鍵があるから職員の気遣いの水準が下がるというのではなく、利用児者が「出入り口」への関心以上の高い関心を室内の活動において確保できるよう、気をそらさなくてすむような職員の努力が必要である。「施錠」は、両刃の剣である。防災・避難の面からも施錠管理ノウハウは常に見直されるべきである。
結果として、平成16年の浴室での死亡事故は、それまでの入浴支援マニュアルが不十分だったことを裏付けることとなった。しかし、続く平成17年の事故は、事故が単に個々の支援マニュアルの問題ではなく、私たちの安全管理意識や事故防止対策等、危機管理の方式自体が現実性を欠いているのではないか、厳しく自らを疑い、問い直さなければならない、そういう事態であることを示すものである。
事故は、起こりうる。が、防ぎうるものだ。マニュアルも必要だがより重要なことは現場の状況判断と管理職の現場評価と対策である。どちらかでも不十分であったり、ひとつの組織として上下に齟齬があれば、いつでも、どこでも、何回でも、予想もしない事故が起こることを肝に銘じるべきである。