リスクマネジメントの取り組み

侑愛荘—トイレでの転倒・転落事故を防止する環境整備

 

侑愛荘の取り組みから(1)

 

トイレでの転倒・転落事故を防止する環境整備

 

 侑愛荘は定員80名の障害者支援施設です。平均年齢は平成21年4月1日現在で69.1歳。知的障害を持ち、なおかつ高齢期にある方々が入所されています。

 

 加齢にともなう利用者の身体機能の低下が著しく、侑愛荘においては転倒・転落事故が事故の大半を占めています。高齢者の転倒事故は、骨折、そしてそこから寝たきり状態に陥ってしまうなど、深刻な被害をもたらすことがあります。転倒事故防止は、侑愛荘において優先的に取り組むべき課題です。

 

 しかし、どこの施設でもそうですが、侑愛荘でも職員の配置数には限りがあり、転倒の危険性のある利用者に常に一対一で見守りや介助をおこなうことが困難であり、種々の転倒事故未然防止策を講じてはいるものの、なかなか思うように事故件数が減少しません。

 

 あきらめずに、利用者の皆さんの機能低下に合わせた環境整備を着実に進め、少しでも事故が減少するよう、またもし事故が発生しても被害が小さく済むような努力を続ける必要があります。

 

 その取り組みのひとつが、ご紹介する車椅子トイレの環境整備です。下の画像をごらんになるとおわかりいただけるように、車椅子トイレは車椅子に乗ったまま便器の近くまで利用者をお連れすることができるようにもともと広いスペースになっています。

 

 しかし、便器に移乗していただいたあとは、プライバシー保護の観点から、基本的には職員はトイレを出て、排泄が終わるまで外で待機します。その短時間の間に、利用者が便器からずり落ちてしまったり、排泄後に職員をナースコールで呼ぶのを忘れてしまい、みずから立ち上がったときに転倒してしまう事故が少なからず発生していました。

 

 そこで、便器からのずり落ちを減らす狙いで、便器横の手すりを固定式のものから跳ね上げ式のものに交換し、また便器の前方にも跳ね上げ式の手すりを新たに設置(平成20年7月)しました。

 

 手すりを跳ね上げ式のものに代えることで、職員は車椅子から便器への移乗の介助の際に、さらに十分なスペースを確保でき、確実に介助ができるようになりました。また前方の手すりは、それにつかまって排便することで、車椅子を利用していない利用者も、自分で腹圧をかけ、ふんばりやすく、自力排泄しやすくなるという役割も果たしています。

 

 ユニバーサルデザインという言葉がありますが、障害のある人にとって便利なものは、いわゆる健常の人にとっても使いやすいものです。侑愛荘では、この手すりの例のように、機能低下した利用者に安心で、同時にまだ機能を維持している方々にとっても便利な環境整備を進めていきたいと思っています。

 

(侑愛荘)

 

便器手摺り写真2

跳ね上げ式手摺り

※気づきメモとは、事故やヒヤリハットに至る前に日常に潜んでいる危険に気づき、予想される事故に対して事前に対応をすることで、大きな事故を未然に防ぐ事を目的とされています。