リスクマネジメントの取り組み

平成24年度研修会 法人施設でのリスクマネジマント事例検討

 

リスクマネジメント委員会主催研修会報告

 

 平成25年2月26日(火)、当別地区にある地域交流ホーム「夢」において、社会福祉法人 函館一条の尾形永造理事長をコメンテーターとして お迎えし、「法人施設でのリスクマネジメント事例検討」と題して、研修会を行っています。法人内の職員が、53名参加しています。

 発表事業所は、ヘルパーステーション「やまびこ」、障害者支援施設「侑愛荘」、障害者支援施設「函館青年寮」、「当別保育園」の4つの事業所です。内容としては、 今までに起きた事故事例等を通して、改善したこと、今後のリスクマネジメントにつなげていくことなど発表し、尾形氏にコメントを頂くとなっています。

 発表された事故事例とコメントなどをご紹介いたします。

 

ヘルパーステーション「やまびこ」

 

事業所の概要

障害児・知的障害者居宅支援事業

 ・身体介護→入浴や食事など

 ・通院介護→通院の付き添いなど

 ・家事援助→料理、掃除、買い物など

 

障害児・知的障害者移動支援事業

 ・移動支援→余暇(サークル活動など)※支援エリアは、函館市、北斗市、七飯町です。

 

【事例1】

本人特性

 ・知的障がい、自閉症、男性、15歳。

 ・身辺面は、日常生活全般において自立している。コミュニケーションは、単語や身振りで伝えることができ、絵、写真、文字の理解がある。 行動面では、するべきことは理解はしているが、困るなどした時は、相手の様子を見て“ 逃げよう”とすることがある。

 

事故報告
(発生時の状況)

 ・平日の午後、カラオケ店。

 ・カラオケが終了後、トイレに行くと言ってヘルパーより先に部屋を飛び出す。すぐには追いかけられない状況であった。 トイレに行くが見あたらず、見失ってしまう。

 

(発生時の対応)

 ・「やまびこ」に連絡をして、職員2名にて周辺を探すが1時間が経過しても見つからず、管理職へ連絡をする。 捜索願いを出すよう指示を受ける。家族へは、捜索願いを出す前に状況を伝えている。

 

結果

 ・警察により20分後に発見される。

 

原因分析

支援者側の要因

 ・スケジュールの手順が適切ではなかった。対応が不十分であった。連携上の要因。

 ・ヘルパーへ十分な引き継ぎがされていなかった。職員間で情報が共有されていなかった。

 

今後の対策

 ・次回からは、本人の特徴を十分に理解し、ヘルパーと事前にスケジュールの確認を行う。 家族ともスケジュールについて再度見直し、活動に生かしていく。

 

尾形氏からのコメント

 ・事故が起こった時には、すぐに管理職へ連絡をして指示を仰いだ方が良かったのではないでしょうか。ヘルパーへの研修会は定期的に行い、 講演会にも参加しているようですが、いつも同じヘルパーが同じ人に対応をするとは限らないので、基本的な知識を学び、 本人の特性もしっかりと引き継がれた方がいいと思います。

 ・人が変われば変わるほど、しっかりとした業務手順書が必要になります。常に整理をして、見直しておくようにした方がいいと思います。

 

障害者支援施設「侑愛荘」

 

【事例1】

本人特性

 ・知的障害、男性、77歳。

 ・白内障、アルツハイマー型認知症、肩関節周囲炎、変形性脊髄症、神経因性 膀胱、麻痺性イレウス、MRSA。

 ・日常生活動作の立位保持と歩行は、自力で行うが不安定。アルツハイマー型認知症のため、1日中施設内を徘徊、声を上げながら歩行していることが多い。 自分から意思表示をすることは困難。食事は、一部介助を要するが、自力で食器を持ち摂取できる。

 

事故報告

発生時の状況①

 ・チキンライスを摂取中に咽せ込んでいる。そのまま食べ続けようとしており、職員より声かけを受ける。 その後、口内から多量のチキンライスが出てきており、喉に痰が絡んだような、ごろごろした状態がみられる。 自力で吐き出すことが出来ず、苦しそうにしているため、看護師へ報告。 本人の強い拒否があるが、サクションを行う。鼻と口から多量の米粒が出ている。

 

発生時の状況②

 ・海老と三つ葉の酢の物を摂取中に咽せ込んでいる。喉付近から何か詰まっているような音が聞こえ、 吐き出すように職員が声かけを行うが、自ら吐き出すことが出来ず、背中のタッピングを行う。 本人が歩き出し、歩きながら少量ずつ、鼻と口から食べ物を吐き出している。 咽せ込んだ直後の血中酸素飽和濃度は97となっているが、時間が経つと92〜93と低下している。更に吐き出し落ち着いている。

 

発生時の状況③

 ・米飯を摂取後、ハムと野菜の卵とじを勢いよく口に入れ、激しく咽せて口腔内の食べ物を吐き出している。 普段より多い量を一度に入れたようで、直後に「もうだめだ」と言い席を立っている。歩行中、呼吸状態の不自然さと多量のよだれ、 チアノーゼが見られている。本人も苦しいようで腕を振り回して暴れ、職員の声かけ等に拒否がみられている。 その後、看護師によるサクションを行い、唾液と少量の卵が出てきているが、依然、多量のよだれと喉からの異音が聞かれ、咳き込みもみられている。 咽せ始めてから1時間後、卵とじと米飯が混ざった物を嘔吐、喉の異音と多量のよだれが治まり、普段の落ち着いた状態に戻っている。

 

今後の対策

 ・過去の事故事例から誤嚥の兆候と思われる状態があったが、認知症を罹患していることなどから、本人が状態を訴えることができず、 嚥下能力の低下や 誤嚥しないための反射機能の低下などをはっきりと認識しづらく、当時は支援者側で明確な対応策をとっていなかった。 その内、誤嚥の症状が表面化してきている。

 ・水分については、溶けやすく消化しやすいデンプン由来のトロミ剤を使用する。

 ・飲食の前後に、歯磨きティッシュを使った、口腔内清掃を行う。

 ・一口の摂取量を少なくするため、小さいサイズのスプーンを使用する。

 ・食事を提供する際は、小鉢に少量を入れて手渡す。

 

【事例2】

本人特性

 ・知的障害、男性、77歳。

 ・前立腺肥大症、頻尿、高血圧、貧血、右大腿部頸部骨折、左大腿部転子部骨折。

 ・移動は、車椅子を使用し、短い距離であれば自力している。危険に対する意識が低く、ブレーキ、フットレストを上げずに立ち上がることが多い。

 ・入浴、洗面、衣服の着脱、排泄は一通り行っているが、不完全であり、確認や介助が必要。

 ・自分の意に反することや思い通りにならないと、拒否することや暴言を吐くことがあり、他利用者とトラブルになることも多い。

 ・背部の湾曲が強く、年々姿勢が悪くなっている。

 

事故報告

発生時の状況①

 ・夜間トイレに行く際、他利用者と口論となり、トラブルに発展して転倒している。トイレ付近の廊下で倒れ、左側の骨盤辺りの痛みを訴えている。 腫れや熱感はなく、痛みの訴えも曖昧であり歩行も可能である。看護師に連絡を入れ相談した所、緊急性が無いため、様子を見ることとなる。 念のため、翌朝に医療機関を受診すると左大腿部転子部骨折と診断を受け入院となる。

 

今後の対策

 ・退院後は、寮移動をして周囲との関係調整を行う。この頃から本格的に車椅子を使用しているが、ブレーキの掛け忘れ、 移乗の際にふらつくことがあるため、再転倒には注意をして対応をしている。

 

尾形氏からのコメント

 ・お餅を丸飲みして時にタッピングをして出したことがあります。喉つまりをしたときに備えて、スキルを身につけておく必要があると思います。 研修会を開くのも一つの方法だと思います。

 ・この発表は分析がしっかりしています。総合的な対策を全職員で共有した方がいいと思います。

 

障害者支援施設「函館青年寮」

 

事業所の概要

 生活介護・施設入所支援。

 定員40名(男性20名、女性20名)

 平成13年の全面改築移転に伴い、80名であった定員を函館青年寮40名、侑ハウス40名に分割している。 建物については、ユニットケアによる生活単位の小規模化と完全個室化を取り入れている。現在、日中活動においては、全ての方が作業(ウニ箱作業、折箱作業、 食品袋詰め作業等)に参加しており、工賃の支給を受けている。

 高齢化が進んでおり、一昨年には初めて平均年齢が50歳を越え、現在では全体の25%が60歳以上となっている。また、最高年齢は72歳に 達しており、身体機能の低下や生活習慣病等の疾病が顕著になってきている。

 

個室化によるリスク

 ・認知症の発症や障害の多様化、重度化に伴い、より濃密な介護が必要となってきた人たちも出始めています。完全な個室化により、利用者全員がプライバシーに配慮された 生活が可能となりましたが、生活を管理する側の立場から言えば、目の行き届かない密室空間となってしまいました。現在のヒヤリハット報告の殆どは、 躓きやバランスを崩す等による軽微なものですが、事故報告は、裂傷などの重大事故が報告されています。全体の事故、ヒヤリハット報告の中では、 居室内にて起こったものの占める割合は1割程度ではありますが、実際のヒヤリハットの件数は何倍にも上がるものと予想されます。

 ・個人の尊厳や権利を保障することと同時に、安全を保障することはとても難しい問題ですが、両者のバランスを図りながら、 日々生活の質を高められるような支援を行っていきます。

 

外出(通院を含む)によるリスク

 ・都市部にある立地条件を生かし利用者の多様なニーズに応えてきましたが、交通量の増加が顕著となり、障がいの程度が重くなり、 きめの細かい医療や介護を必要とする方達が増えてきました。そのため、それまでの外出計画などと、同じ内容のことを提供するのが難しい状況となってきました。 実際に信号無視や横断歩道のない場所で横断するなど、交通ルールを守れない状況が確認されています。そのため、もう一度守るべきマナーやルールについて確認 しあいながら、単独での外出に向けての取り組みについて検討を始めた所です。

 ・通院に関しても、車両の乗降時に額をぶつける、駐車場にある車止めに躓くなどの事故、ヒヤリハット報告がされています。 外部の医療機関を利用した方が年間延べ1,400名もいますので、今後も、一層安全に配慮した支援を必要とする状況が増えてくることが予想されます。

 

地域との共存におけるリスクについて

 ・以前は建物の周囲に畑や草地が広がっており、多少大きな音を立てても問題となるようなことはありませんでした。 しかし、時代とともに近隣に住宅などが増え、それまでの環境が一変してきました。利用者の大きな声や敷地から木の枝がはみ出すといった、実際の苦情に対しては、 その都度、誠意を持って対応し、ご理解を頂いてきました。今後も、地域から信頼を持たれるように、襟を正していかなければと思っています

 

尾形氏からのコメント

 ・私の事業所に通所をしている方が、バスの中で女子高生に殴りかかり、運転手さんに止められたことがあります。 起こってしまったことについては、適切に対応をしなければならないと思います。リスクをマネジメントしていく中では、大変だとは思いますが、 後ろ向きにならないで下さい。

 

「当別保育園」

 

事業所の概要

 園児13名、学童9名、職員13名

 海や山に囲まれた環境の中、四季を通して自然にかかわって遊んでいます。土起こし、種植え、草取り、水やり、収穫や野菜、お米作りに 挑戦しています。小規模園ですが、学童クラブを併設しているので、0歳から小学生までの異年齢とのかかわりや遊ぶ機会が多くあります。 運動会やコンサートなどの地域の行事の参加したり、ひな祭り、餅つきなどでは、老人クラブの方を 招待したり、単身の世帯には、季節のプレゼントを 届けたりと地域の方とのつながりを深く持っています。

 

ヒヤリハット報告、気づきメモの提出から見えてきたこと

 ・当別保育園では、

 子どもが転倒をして膝を擦りむいた→事故

 子どもが転倒をしそうになった→ヒヤリハット

 と、定義しています。

 ・反省、課題としては、ヒヤリハット報告書と気づきメモの提出数が少ないことがあげられます。 これに関しては、ヒヤリハット報告書と気づきメモの様式の見直しの検討をして改善をしています。

 ・改善をした結果として、前年度より約1.7倍の提出数となっています。具体的には、「書きやすい」、「提出しやすい」と言う声がありました。 提出をしている職員に偏りはありますが、日常的な危険を見落として気づいていない訳ではないと思われるので、無意識に気づいて、 回避をしている部分を表現化し、情報の交換や共有をしていることを文章化していく作業を進めていきたいと思います。

 ・地域とのつながりとしては、スズメバチが敷地内で巣を作った時、町内会の方が到着した後、市役所から依頼された駆除業者に駆除をして頂きました。 その後、地域でスズメバチの情報を共有し、職員、園児、保護者へ周知をしています。

 ・この他にも、津波の避難所に指定されていることから、津波、地震、土砂災害の学習会を開くなどしています。

 ・日常の関わりから非常時、緊急時の地域の方との関わりや保育園の役割を再認識していきたいと思います。

 

尾形氏からのコメント

 ・事故を起こしてしまっても大丈夫なセーフティネットを機能させるのが、リスクマネジメントだと思います。

 ・報告書は反省文だとまだまだ思われがちですが、それは違います。様式が悪いと書きづらいので、その時は見直す必要があると思います。 サービスの質を高めることがリスクマネジメントの基本です。起こしてしまったことへの学びやヒントを、予防につぎ込んだ方がコストも安く済みます。

※気づきメモとは、事故やヒヤリハットに至る前に日常に潜んでいる危険に気づき、予想される事故に対して事前に対応をすることで、大きな事故を未然に防ぐ事を目的とされています。