リスクマネジメントの取り組み

平成28年度 第2回リスクマネジメント研修会

 

平成28年度 第2回 リスクマネジメント研修会

 

「平成28年度 第2回リスクマネジメント研修会を終えて」

 

 平成28年2月23日、今年度2回目のリスクマネジメント研修会が開催され、50名以上の職員が参加をしています。今回も昨年に引き続き、「法人内のリスクマネジメント事例検討」と題して、4つの事業所から発表をしています。

 

●社会福祉法人 侑愛会 「侑愛荘」

「誤飲事故からみる、その後の対応について」

 概要

 ・利用者Tさん。59歳。IQ32。ダウン症。アルツハイマー型認知症、てんかんなど。

 

発生時の対応

 ・昼食時、普段とは違う奇声を上げる。口腔内にあった部分入れ歯が見当たらない。喉の付近に入れ歯のような形状のものがあり、手を入れて取り出しを試みるが届かず、前傾姿勢にて吐き出しを促しながら、看護師に応援及び救急車要請を行う。事故発生から、15分後に救急車が到着し、救急搬送となる。その後、保護者へ連絡をし、事故の経緯を説明する。

 ・レントゲン撮影にて、胃の入り口付近に入れ歯が見つかる。全身麻酔にて開腹して入れ歯を取り出す。

 

発生後の対応

 ・SHELモデルにてリスク分析をする。ダウン症の方の加齢による機能低下について確認をする。摂食研修会を開催する。

 

まとめ

 ・今回の事故事例を結果としてだけではなく、よりよい食事支援を展開していくきっかけとして生かして行く。

 ・特に、ダウン症高齢者の方は、誤嚥事故ハイリスク群にあたり、支援方法一つで危険にさらしてしまう事も十分に考えられることから、食事介助について見直すこととする。

 

●社会福祉法人 侑愛会 「ワークショップはこだて」

 

 「通勤及び送迎支援に於ける取り組み」

 概要

 

 ・10年前の通勤状況と現在の状況を比較すると、自力通勤者は、約半数となっており、その分施設での送迎者が増加している。また、10年前の自力通勤者のリスクと課題として、交通ルール違反、転倒による怪我、自転車通学生との接触やトラブルなどが上げられる。この対応策としては、交通ルールやマナーについては、定期的なミーティングや見守りの実施。ケースによっては、帰宅確認のための入電を行っていた。

 ・現在のリスクと課題としては、自力通勤や家族の送迎も含めると、怪我や軽微な接触事故があげられる。利用者の方や保護者の高齢化に伴い増加した、施設送迎を中心にみていくと、送迎車内での対人関係、環境設定の調整の難しさ、職員間での情報共有不足による利用者の方や保護者の混乱が目立っている。

 

ケース1の概要

 ・Kさん。49歳。男性。自閉症。障害支援区分6。施設送迎。

 ・公用車の乗降時や玄関先での声上げと停滞が強くなり、車内での声上げが大きくなり、パニックに至ってしまう事で運転に支障をきたす。

 ・Kさんは、以前から場面の切り替え時に停滞がみられていた。ルーティンが強く、不快な時や拒否の時には声上げがある。

 

発生時の対応

 ・ケース会議を開催し、送迎車に職員が同乗し状況を確認する。

 ・日中活動にて、構造化の手法を取り入れたことにより、雑然としていた車内環境(車内の人数含)に負担を感じていた。隣席の方の話し声が苦手であった。

 

発生後の対応

 ・送迎車内の人数とコースの再編成。運転者と同乗者をボードと写真を使用して提示。座席(Kさんは最後部に一人掛け)の変更。Kさんへ一貫した支援の徹底。

 

まとめ

 ・落ち着いて公用車に乗車することが出来るようになり、運転者や同乗者の変更も受容出来るようになる。

 

ケース2の概要

 ・Hさん。27歳。女性。自閉症。障害支援区分6。自力通勤。

 ・出勤時間の変動や利用するバスを頻繁に変更するようになる。苛々した状況で出勤するようになり、他害に及ぶこともある。バス時間や系統への固執が強くなり、自家中毒を起こしやすくなる。

 

発生時の対応

 ・バス停での見守りやバス内での表情などをする。家庭での様子を確認する。職員と一緒に出勤する。

 ・Hさんが利用しているバスが、朝のみ5分間隔で運行していることで混乱し、出勤経路で苦手な犬と遭遇する。これらのことを回避するため、出勤時間が遅れることで気が焦っていた。

 

発生後の対応

 ・降車時のバス停の位置も含めて、利用するバスを見直す。乗車する際にバス停まで同行し、見守りをする。職員と行う相談支援の時間に「バスのお話」を設定する。

 

まとめ

 ・出勤時に苛々することやパニックを起こすことが軽減され、不安なことを話せるようになる。

 

●社会福祉法人 侑愛会 「当別保育園」

 

 「災害対策と対応について」

 概要

 

 ・園児13名。学童クラブ11名。職員数12名。運動会や文化祭など地域の行事に参加し、もちつき等では、老人クラブの方々を招待し、単身世帯には季節のプレゼントを届けている。海抜32メートルの高台にあり、第一避難所までの距離は、160メートルである。

 

台風発生時の対応

 ・昨年8月、台風10号により、大雨、波浪警報が発令される。前日の予報を踏まえ、園外の物が飛ばないように安全確認を済ませていたため、開園時間中には大きな被害はない。

 ・夜間に停電。

 ・翌朝には、こいのぼり用のポールが倒れ、園庭内に木の枝が散乱している。近隣では、倒木が多くあり、土砂崩れのため通行止めが続く。食中毒警報が発令される。冷蔵庫内は、扉を開けない限り、庫内の保冷効果はすぐには下がらないが、冷凍保管が必要な物は、七重浜保育園で一時保管することとなる。

 ・約30時間後に送電開始となる。

 

まとめ

 ・今回の停電は、園児のいない時間であったこと、停電になっても温度や明るさにさほど影響のない季節であったことなど、子供達が不安になったり、保育に支障がでるような状況ではなかったことが不幸中の幸いであった。これが冬場の停電であったら、暖房の確保や照明の少なさも手伝い、不安が増すことが予想される。そのため、防災訓練は、様々な季節、時間、曜日に設定する必要があるのではないか。

 

●社会福祉法人 侑愛会 「クッキーハウス」

 

 「クッキーハウスの取り組み」

 概要

 

 ・通所授産施設として開設。現在は、就労継続支援B型、生活介護の2つの事業を運営している障がい福祉サービス事業所。定員は、55名。平均年齢は、39.6歳。利用者の方々の高齢化が進み、転倒の件数が増え、今までみられなかった誤嚥が発生し、事故やヒヤリハットの報告件数が増えている。

 

事故、ヒヤリハットへの対応

 ・ビーター(生地を混ぜる機械)の接合部分が鋭利な状態であり、洗う際に手を切る可能性があったが、キャップを手作りし、洗う際には必ず付けている。

ビーター

 ・机や冷蔵庫の角を保護する

 ・冬期間は、車内を暖めるためエンジンをかけておくと、走り寄って窓から車内を眺める方、車を押す方、車内に入ってしまう方がいたため、スペアーキーを用意し、エンジンをかけたままドアをロックできるようにする。

 

ケース1の概要

 ・Iさん。男性。自閉症。

発生時の対応

 ・作業中にIさんが他利用者の右腕を強く握りしめる。振り払おうとした際、ひっかき傷ができ、内出血が確認される。

 

発生後の対応

 ・Iさんの再アセスメントを行い、必要な構造化を図る。以前から使用していたカムダウウンエリアを利用し、このエリアで軽作業もできるようにする。

構造化の写真

 

ケース2の概要

 ・Yさん。女性。65歳。左右人工股関節。

 

発生時の対応

 ・作業をしている所から2メートル離れた洗い場へ行き、戻って来る際、体の左側から転倒。背中から倒れ、左肩甲骨にヒビが入る。外傷を確認するが、職員と看護師では確認が出来ず通院となる。

 

発生後の対応

 ・高齢で人工股関節などの影響があり、移動には注意が必要な状態であったが、段差があり注意が必要な環境であった。体調に関しても、Yさんの方から作業の辛さを訴えてくることはないが、様子をみていると、1日の立ち仕事をする体力がないのではないかと感じられる。しかし、Yさんだけで休憩をとることや座って作業することを拒否することがある。そのため、工場全体で休憩することやYさんに座って行う作業を取り入れることで改善を図る。また、環境を改善し、できる限りの動線を確保する。また、ガス栓などの工事を行い、洗い場の横に網を収納できるようにした。

洗い場写真

 

まとめ

 ・クッキーハウスは、年齢が若く動ける方が多いからこそのリスクが多く存在している。個別支援計画に沿った支援やリスクについて考えることは必要だが、商品価値を守ることも考えなければならない。また、既存の工場では、段差がありバリアフリーな状態ではない。個室がなく、オープンな工場作りが難しくなっている。しかし、利用する方々が就労への意欲や作業に対するやる気、クッキーハウスにいる意味を尊重するためにも、できる限り安全な環境を整え、個別支援計画をその都度見直し、利用する方々が作業に関われるよう考える必要がある。

 ・リスクマネジメントを考えることは、より良い支援を考えることにつながる。ケース会議や勉強会を通して、職員一人ひとりが意見を言い合える、風通しの良い職場を作っていきたい。

 

リスクマネジメント委員会 責任者 川又賢一

※気づきメモとは、事故やヒヤリハットに至る前に日常に潜んでいる危険に気づき、予想される事故に対して事前に対応をすることで、大きな事故を未然に防ぐ事を目的とされています。