リスクマネジメントの取り組み

平成30年度 第1回リスクマネジメント研修会

 

リスクマネジメント委員会主催研修会報告

 

平成30年度 第1回リスクマネジメント研修会を終えて

 

 今回の研修会「地域包括支援センターにおける事故リスクへの取り組み」をテーマに、講師として、地域包括支援センターときとうの長谷山センター長をお招きして開催しています。 地域包括支援センターが函館市には、10カ所あります。これらセンターでは、社会福祉士、保健師、主任介護支援専門員が働いています。その中で、地域住民のよろず相談窓口(介護や福祉、高齢者虐待に関することなど)として、誰もが住み慣れた町で暮らし続けられるように、支援を必要としている人と制度や地域をつなぐ役割を果たしています。

 

高齢者虐待について(擁護者による虐待、従事者による虐待)

 

 高齢者虐待には、大きく分けて「身体的虐待」、「心理的虐待」、「性的虐待」、「経済的虐待」、「ネグレクト」がある。最近は、経済的虐待がもっとも多いとされている。

 

 〇養護者による高齢者虐待

  ・息子や娘等からの虐待

  ・配偶者の一方からの虐待

  ・孫からの虐待

 

 などがあります。函館市では、このような虐待が、月に2件ほどあります。

 

 〇要介護施設従事者等による虐待は、

  ・介護保険施設

  ・有料老人ホーム

  ・地域密着型サービス事業

  ・居宅サービス

  ・地域包括や居宅介護支援事業

 

 などでも起きています。その件数は、相談、通報件数と虐待件数ともに右肩上がりになっています。また、相談や通報者として最も多いのが、家族や親族、次いで当該施設管理職員となっています。虐待の発生要因としては、職員のストレスや感情のコントロールの問題、虐待を助長する組織風土や職員間の関係性の悪さが特徴としてみられています。

 

介護事故予防も高齢者虐待予防も考え方は同じ

 

 ピラミッドの頂点には、「事故報告」、ピラミッドの底辺には、「ファインド報告」、これらの間には、「ヒヤリハット報告」があります。ファインド報告にあるような、不適切なケアを少なくすることが大切です。

 

 〇顕在化した虐待(法律で処罰を受ける、社会的に注目される-殺人、傷害性の強い暴力など)

 〇意図的虐待(組織的に集団で繰り返し行う-暴言や暴行、放棄、決定的な身体拘束など)

 〇非意図的虐待(集団処遇をより固定化して実施-急がせる、無視する、指示する、押しつけるなど)

 〇常態的身体拘束(利用者のためだからと理由を正当化して-縛る、閉じ込める、薬でおとなしくさせるなど)

 〇不適切ケア(誰もが持つ悪性の感情に無関心な状態-イライラする、ごまかす、決めつけるなど)
「不適切なケアを継続していくと、ダメになってしまう。」

 

 〇虐待を報道された施設は、

  ・地域住民や家族から信頼を失う。

  ・利用者が退去する。

  ・新規利用者の入居申し込みがない。

  ・職員への待遇が低下する。

  ・職員が退職する。

 

 となってしまう。

 〇虐待発生施設を調査すると、

  ・職場に対する不満感(不信感)がある。

  ・フロア内で派閥がある。

  ・ユニットリーダー同士の仲が悪い。

  ・シフトに関する不満がある。

  ・給料に関する不満がある。

 

 という結果が出ている。

 

職員の資質

 

 職員の採用基準が、人材不足から誰でも良いから採用する。そうなってしまうと、新人職員の資質を一定レベルまで上げる前に、指導者がバーンアウトしてしまう。函館市の虐待における分析結果として、虐待が発生する要因として、管理体制の不備や専門職としての倫理観の未熟さがあり、支援方法や感情のコントロールなどの技術不足が上げられる。

 

権利擁護

 

 早期発見や早期対応も重要だが、介護における究極の権利擁護は、リスク(虐待や介護事故)を発生させない環境作りであり、対応方法の検討も必要であるが、予防の視点の方が大切である。

 

発生させない環境作り

 

 養護者における虐待の場合は、地域での取り組みが大切。虐待が重篤化する前に、相談機関に繋がる仕組みを作る。従事者による虐待の場合は、施設内での取り組みが大切。直接的に虐待に関する研修会を行うよりも、認知症を理解する研修会を行った方が効果的である。

 

リスクマネジメントについて

 

 1 リスクがリスクにならないためには、施設と職員、職員と家族の信頼関係の積み重ねが大切になってくる。 リスクを回避するには、

 ・家族への挨拶や電話での対応といった、接遇を徹底する。

 ・謝罪、報告などの初期対応を迅速に行う。

 ・労働環境の悪さは、事故に比例するため、職場の雰囲気や環境作りを大切にする。

 2 根拠に基づいたケアの実践 行ったケアについて、なぜそのやり方で行ったのか、根拠に基づいたケアを提供できる視点を、常に考えることができるように、職場環境の整備をしなければならない。

 

認知症を発症すると

 

 判断能力とは、一言でいえば、「自分の身に起きているか理解することができる能力」。 認知症を発症することにより、判断能力が不充分になると、権利を侵害されやすい状態となる。

 ・必要な医療や介護を受けていない。

 ・訪問販売で必要のない物を買ってしまった。

 ・他者からの権利侵害(家族虐待、福祉施設虐待)を受ける など。

 

 函館市の高齢者数は、平成30年3月末日の時点で、89,156人で、うち認知症高齢者数は、約10,700人である。高齢者人口に対する認知症高齢者等の割合は、約12.3%である。

 

成年後見制度とは

 

 「認知症や知的障がい、精神障がいなどにより判断能力が十分ではない人の預貯金の管理(財産管理)などや日常生活での様々な契約行為(身上看護)などを、支援する制度。

 

 〇財産管理

 

 「本人の預貯金の管理、不動産などの処分、遺産分割など財産に関する契約などについての助言や支援をすること」

 ・年金等の受け取りや管理。

 ・公共料金、介護、医療費等の支払い。

 ・不動産の管理。

 ・悪徳商法等の被害にあった場合の対応 など。

 

 〇身上看護

 

 「介護・福祉サービスに利用、病院や福祉施設への入退院や入退所の手続きや費用の支払いなど、日常生活に関わる契約支援のこと」

 ・入院時などの医療に関する契約支援。

 ・介護保険制度申請手続きやサービス利用における契約支援。

 ・高齢者施設などに入所する場合の契約支援など、

 その方が生活をする上で、必要とされる様々な契約行為を行う。

 

 〇施設側が新規利用者を受け入れる時のリスク

 ・身よりがない。

 ・認知症を発症している。

 ・知人から虐待を受けている。

 ・売春や覚せい剤等の犯罪歴がある。

 ・借金がある。

 

 〇後見制度におけるリスクマネジメントの考え方

 

施設側のメリット

 ・契約行為がスムーズ。

 ・施設利用料の滞納や未払い金の解消。

 ・虐待やDV、家族間紛争など困難ケースへの対応がスムーズ。

 ・死後の事務対応。

 ・身寄りのない方への公的支援の確立。

 ・借金問題等の法的問題への対応。

 

施設側のデメリット

 ・転倒事故が発生した時。

 ・施設内虐待が発生した時。

 

 〇後見人も価値観はそれぞれ・・・。

 ・後見人によって、被後見人へ対する支援の方法や価値観や考え方が違う事がある。

 ・後見人と被後見人は、法律上は一心同体である。関係性は、関係者より家族、家族より後見人となる。

 ・デメリットとしては、後見人の変更(交代)は原則的に難しい。

 

まとめとして

 

 〇介護福祉実習生の声

 ・食事介助の時に、詰め込んでいた。

 ・片麻痺のある高齢者の着脱介助が、力任せだった。

 ・夜中にナースコールを外していた。

 ・声掛けが乱暴だった。

 ・指導者から「私の介護方法は真似しないでね」と言われた。

 ・実習生の前で、同僚の悪口を言っている。

 

 〇苦情が多いケアマネや相談職

 ・自分の意見を本人や家族に押しつける。

 ・わかっているようで、わかっていない。

 ・相手の話を傾聴しない。

 ・決断力がない。

 ・高齢者に対する偏見。

 ・高齢者に対して上から目線。

 ・会社や同僚の悪口を言う。

 

上記の「実習生の声」と「苦情」を踏まえ、地域包括支援センター内の約束事として

 ・絶対に同僚の悪口や苦情を言わない。

 ・絶対に会社の悪口を言わない。(自分で選んで入社した会社であるため、自己否定へとつながる)

 ・業務上の弱音は、ある程度容認する。

 

 〇働きやすい職場

 ・シフトの休み希望を聞く。

 ・懇親会(飲み会)の参加は、本人に選択権を与える。

 ・一定の裁量権を与える。

 ・100%を求めない。(1つの優より3つの可)

 

 働きやすい環境が、結果的にリスクマネジメント(介護事故防止や高齢者虐待予防)へとつながる。働きやすい環境への改善は、本来、組織の責任者の仕事であって、一スタッフの仕事ではない、と認識しているかもしれません。しかし、スタッフも職場環境を構成している一員です。働きやすい環境は、必ずしも上から、あるいは他から与えられるばかりではなく、相互に作り出し、整えていくもの、という視点でとらえてみることが大切です。

 

最大のリスクマネジメント

 

 1 実践(業務)の中で、家族、利用者と介護職の間に信頼関係を構築し、十分なコミュニケーションを図る。

 

 2 たとえ事故が起きてしまったとしても、家族と施設との誤解や憶測、感情論により、問題がこじれることを防ぎ、利用者の立場に立った問題解決がしやすくなる。

3

 事故が起きる前から、日常的に質の高いケアを目指し、信頼関係を築くことこそ、最大のリスクマネジメントである。

 

 以上。

 

リスクマネジメント委員会 責任者 川又賢一

※気づきメモとは、事故やヒヤリハットに至る前に日常に潜んでいる危険に気づき、予想される事故に対して事前に対応をすることで、大きな事故を未然に防ぐ事を目的とされています。