ゆうあいの歴史

地図にない村、ゆうあいの郷が漁火の見える丘に誕生して50年のときが流れようとしています。 私たちの物語は、小さな保育園から始まりました。

変容期:その人らしい人生を支えたい

「利用する方々から学び、一人一人が必要としているサポートを考え、実行する」。この法人理念は開設当初から脈々と受け継がれてきた「利用者ファースト」「多様性の尊重」などの精神を謳っています。「ともに生き、共に成長していきたい」。ゆうあいはこれからも求められる姿に変容しながら歩みを重ねていきます。

上:グループホームのどか/下:グループホームすばる

上:海外研修(ノースカロライナ)/下:自閉症のためのワークショップ

現在の「ゆうあいの郷」

個別化の推進と多様性の保証

「個別化の推進と多様性の保証」という考え方を元に画一的で集団活動重視のスタイルから、より個のニーズが反映されるコンパクトなグループホームなどのハードへ転換していきます。

平成19年のワークセンターほくと(自閉症の特性が強い利用者の方々が大半を占める生活介護事業所)の開設、平成27年のグループホームのどか(知的障がいのある高齢者を対象)、同年開設のグループホームすばる(自閉症の方のみを対象)はその代表的なものです。

これまでの「作業」活動だけでなく、創作やアート、レクリエーション、健康や運動、人間関係づくり、生きがいや居場所づくり、生活リズムの整えなど、一人ひとりのスタイルに応じた「住まう場」づくりが目指されています。

上:グループホームのどか/下:グループホームすばる

権利擁護・虐待防止

障がい者福祉の歴史は、「社会の中で尊厳と権利の獲得を目指してきた歩み」と言えるかもしれません。広く共生社会の実現が謳われるようになった現在でも、障がいのある方達をめぐる虐待事件は後を絶ちません。

時代が変わっても、一歩間違うと障がいのある方たちは容易に権利を侵されやすい立場になってしまうことを忘れてはいけません。

おしまコロニーはいち早く権利擁護の取り組みを始めました。福祉施設は利用する方たちの人権を守る立場にある一方で、身近にあればあるほどそれを犯しやすい危険性をはらんでいることを自覚していたからです。

平成11年に、職員の倫理綱領・行動基準を策定します。平成12年には、おしま学園にオンブズマン制度(第三者評価・情報公開)を導入しました。(平成19年には侑愛荘も)同時に全施設に苦情解決制度を取り入れています。

リスクマネジメント

平成16年、翌平成17年と大変痛ましい事故が起きました。一件目は入浴中に、二件目は所在不明の末に麓の沢で、尊い命を失いました。悔やんでも悔やみきれない事故でした。

こうした取り返しのつかない事故を二度と起こすことがないよう、平成18年にリスクマネジメント委員会が設置されました。事故防止の取り組みを個人の心がけや施設単体の自助努力によるのではなく、法人全体(全施設の職員が構成メンバー)をあげて組織的、計画的に行う共通の仕組みに作り変えようとしたのです。

事故を未然に防ぐ考え方(クオリティ・インプルーブメント)を基本姿勢として、事故につながる些細な出来事も日頃から見逃さずに報告や検証を行い事故の芽を摘み取るよう努めています。

平成24年に障害者虐待防止法が施行されてからは、虐待防止の取り組みも活動の一つとなっています。

人材育成と専門性の向上

福祉は人なり。開設から現在まで50年、その半世紀を超える歩みの後半はハードからソフトへと重心をうつし、支援の専門性をひたすら磨く歩みだったと言えるかもしれません。

多様化する障がい特性やニーズに応じた支援を可能とするような知識や技術の習得のために、各種セミナーやコンサルテーションの実施、海外研修への派遣、研究論文の表彰などをおこない、学び続けることのできる環境や人材育成のためのプログラムの充実に努め、人材育成には特に力を注いできました。

法人オリジナルの人材育成シートを活用しての育成プログラムも効果を上げつつあります。

大場(公)は職員に「学びつづけること」「専門性を高めること」の大切さを繰り返し説いています。それは謙虚さを失わずに自己研鑽し続ける姿勢を身につけることにつながり、ひいては利用する方たちへのより良い支援につながっていくことでもあるからです。

上:海外研修(ノースカロライナ)/下:自閉症のためのワークショップ

運営方針のシフトチェンジ

こうした「個別化の推進と多様性の保証」「権利擁護と虐待防止」「リスクマネジメント」「人材育成」などのテーマを重点課題として、平成20年より法人の経営・運営三か年ごとの計画が示されました。

国内でも有数の大きな規模を持つに至ったおしまコロニーを維持していく上で、理事長や総合施設長などの個人主導から、チームやシステムによる意思決定のスタイルへ転換を図り、組織的、計画的に舵取りをしていく体質にシフトしていくことも狙いでした。

経営面では時代に合わせた事業の見直しや効率化、人件費や経費の削減などが課題とされました。

支援面については、施設から地域へのシフトがより鮮明になる制度施策への対応、通勤寮やゆうあい養護学校高等部の廃止、児童施設の加齢児増加(第二おしま学園は、平成25年に成人施設ねお・はろうに)、成人施設の利用者の高齢化重度化などによりおしまコロニーの総合支援体系に変化が迫られていることなどが盛り込まれました。

社会情勢や福祉制度、法人の経営や課題、利用する方たちの状態像やニーズの変化に呼応するように、盛り込まれる目標や重点課題も更新され続けています。

時代を超えて受け継いでいくこと

平成29年でおしまコロニーの歴史は半世紀をむかえました。小さな保育園がルーツとなってゆうあいの郷ができ、現在そのフィールドは街の中のいたるところへ広がりを見せています。

はじまりの地、ゆうあいの郷には今日も50年前と変わらないトラピストの鐘がこだまし、眼下には遠く函館山を望む津軽海峡が真っ青に広がっています。そこで暮らす人たちの笑顔や子供達の歓声は高く空に溶けていきます。そんな情景は今も昔も変わるところがありません。

この情景と同じように、おしまコロニーも、時代や制度の変遷にぶれることなく大切にしてきたことがあります。それは「どんな子どもで(障がいが)あっても、必ず成長するものだ」という信念です。「ともに生き、ともに成長していきたい」それは、初めて障がいのある子ども達と出会った七重浜保育園のころから変わらないおしまコロニーの伝統的な基本姿勢です。

すべては彼らから教わってきました。道しるべは、彼らが必要としていることの中にこそあるからです。「障がい者」と呼ばれた彼らの人生が人間らしく、またその人らしく生き活きとした豊かなものであってほしい。

おしまコロニーがここまで大きな事業体になったのには理由があります。支援を必要とする彼らの生き方や願いが一人ひとり違っていたからです。一人ひとりの人生にわたって必要とされる支えの機能をおしまコロニーというかたちで実現しようとしてきた結果です。

ここまで長い歩みを重ねることができたのは、多くの方たちとの出会いや支えがあったからに他なりません。市町村の方たちはもちろん、全国津々浦々から、また遠く海外から、ご指導や励ましを幾度となく受けてまいりました。

そして何より私たちに勇気を与えてくれたのは、利用する方たちの笑顔と、彼らに限りのない愛情を注がれるご家族の姿でありました。

おしまコロニーはおしま学園50周年となる節目をもって「ゆうあい」と名称を改めることとなりました。

名前は変わっても、これまでに築き上げてきた伝統や精神は受け継がれ、守られていくことでしょう。

そして、同時に変わり続けてもいくでしょう。

私たちを必要としてくれる方々一人ひとりの人生と同じように。

これからも進むべき道しるべを、彼らが必要としていることや、かけがえのない笑顔に求めながら「ゆうあい」としての歩みを一歩ずつかさねていきたいと思っています。

現在の「ゆうあいの郷」